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斜面災害予測研究領域

地すべりは、土砂が斜面を流下する現象である。したがって、地すべりの運動機構、すなわち地すべりダイナミクスは、地すべり現象の本質であるといっても過言ではない。地盤の破壊という観点から見た場合、地すべりの特殊性は、主にその現象が通常の変形の範囲を超えた大変形の領域で発生している点である。したがって、当研究領域では大変形を与えうる大型リングせん断試験装置を開発し、主に大変形領域の土のせん断挙動を調べる事に研究資源を傾注してきた。その成果は、「すべり面液状化」や「高速地すべり運動のメカニズム」といったいくつかの新しい概念の提案として結実した。一方、戦後社会の終焉とともに、中山間地における地すべり研究は、その社会的な大義名分を失いつつある。しかし、代わって顕著になってきたのが、都市域の住宅地における斜面災害のリスクである。これは、戦後一貫して建設されてきた住宅地における人工斜面(例えば、谷埋め盛土)の地震時脆弱性の問題であると同時に、運動機構においても本質的な問題点を含んでいる。当研究領域では、この問題にも積極的に取り組み、その提言は国や自治体の施策に反映されるに至っている。また、近年では文理融合を目指して考古学や歴史学分野の研究者とも活発な共同研究を実施し、新たな研究分野の開拓を目指している。具体的な研究テーマは以下の通りである。

(あわせてメンバー紹介もご覧ください)

(1)地すべりの発生機構の解明

 本センターで開発した「地すべり再現試験機」を用いて、高速長距離運動地すべりの発生、運動機構の研究を推進している。特に高速運動が発生する過程についての研究を実施しているが、これまでに実施した主要な研究は(1)可視型地震時地すべり再現試験機と画像解析による流動からすべりへの相転換過程の研究、(2)個別要素法を用いた「すべり面液状化」の発生過程についての研究、(3)粘性土の繰り返し載荷試験を通して塑性指数、各種イオンの含有量、pHの変化と繰り返し載荷時の液状化の発生特性の研究、(4)粘性土の摩擦角の速度依存性、(5)三次クリープの速度~加速度関係のパラメータについて研究を実施し、それぞれ重要な知見を得た。

(2)都市域における斜面災害危険度評価手法の研究

 1995年の兵庫県南部地震の調査をきっかけとして開始された。問題が深刻であったため、当初予定された災害調査報告の域を超えて、この研究は広がりと深まりを見せた。これまでの成果は以下のとおりである。

①被害・無被害事例に基づく、簡便な災害発生予測手法の開発

②東京都南部から横浜北部地域を対象としたハザードマップの作成

③谷埋め盛土における地表地震動と間隙水圧観測による実態の解明

④高精度表面波探査やEM電極型比抵抗探査による盛土構造の解明

⑤変動メカニズムとしてのRoller sliderモデルの提案

これらの成果は、44年ぶりに行われた宅造法改正(2006年9月30日施行)の学術的根拠となった。これにより、既往の盛土も含めて宅地盛土の耐震化(規制+事業)が全国規模で行われる事になった。これらの研究成果は、従来、工学的な狭い意味でしか捉えられてこなかった都市の人工宅地地盤に地質・地形学的な地すべり研究の手法を導入し、最適な手法に進化させる事によってもたらされた。したがって、この研究は、応用地質学、土木工学、建築学の境界領域に、新たなテーマをもたらした具体的事例として、学術的意味を持っていると言える。

(3)地盤災害考古学的視点からの都市域斜面の長期安定性評価

 内陸地震の再来周期を考えると、約1400年以上前の古代に築造された古墳は、都市域における大規模盛土構造物のナチュラルアナログとして重要な意味を持っている。これまで調査した、西求女塚古墳(神戸市、3世紀後半:液状化)、赤土山古墳(天理市、4世紀前半:自然斜面の地すべり)、今城塚古墳(高槻市、6世紀前半:沖積地盤+地震断層近傍)、カヅマヤマ古墳(明日香村、7世紀後半:急斜面)における墳丘の崩壊(地すべり)のメカニズムは様々であるが、盛土の安定にとって盛土自体の強度よりも基礎地盤の状況の方が重要である事は、共通して見られた点である。これは、現代の谷埋め盛土問題にも通じる知見である。

(4) 地すべり変動の隔測および探査技術の開発

 GPS(人工衛星測量)を地すべり移動計測に用いた研究を展開した。特に連続静止観測が行われている怒田地すべりを試験地としてRTK-GPS(リアルタイムキネマティック)法を用いた短時間の地すべり移動計測を行い、斜面変動量を精度よく測量し、定期的に診断するための試験方法を開発した。この手法を中越沖地震の被災地域に適用し地震後の斜面(人工斜面)のモニタリングを実施した。その結果、余効現象として長期にわたり変動が継続する場合があることを見出した。

(5)国際共同研究

 平成18年フィリピン・ギンサウゴン地すべり発生後、国際合同調査を実施し豪雨のあとに発生した小規模地震の複合作用により発生したことを明らかにした。平成18年-20年には、中国三峡ダム貯水池において、千将坪地すべりのような再活動地すべりが高速運動した原因に着目し、現地調査及び詳細な土質試験・分析により、すべり面がその付近領域に拡張していくことより、再活動地すべりでも高速運動できる運動機構を解明した。また、樹坪地すべりにおいて、中国地質調査局、中国科学院及び中国三峡大学の協力を得て、伸縮計、間隙水圧計、傾斜計、孔内パイプひずみゲージ、水位計を含めた観測システムを設置し、長期観測システムを設立して水位低下及び降雨による斜面変動への影響を明らかにした。これにより、より計画的に貯水池の水位管理を行わない限り、地すべりが必ず発生する危険性を指摘した。これらの成果は、英文単行本にとりまとめられ、出版された。